ana-partners diary

税理士×社労士がフリーランス、サラリーマン向けの税金、労務情報をアップしています!

《番外編》令和3年税制大綱 中小企業M &A税制(未払残業代や名義株について)

1.概要
令和3年税制大綱により、中小企業がM &Aを実行する際に、簿外債務や偶発債務のリスクに備えるため、税制上の優遇措置が創設されました。
①中小企業者が10億円を限度として、買収対象会社の株式を購入。
②購入した株式を決算日まで引き続き保有し、10億円の70%を準備金として積立経理
③準備金7億✖️法人税20%=1.4億円納税額が減少し、この余剰資金をM &Aのリスクとして備える。
④5年経過後は、1.4億円を5年均等で取り崩し、益金算入。
⑤単なる課税の繰延べでそこまで効果があるのか、個人的には疑問。

2.留意点
① M &A前に経営力向上計画の認定を受ける必要
②施行日が未定
③現状売手も中小企業限定かは不明

3.中小企業M &Aの問題点
買収会社にとって、中小企業M &Aのリスクは高いと考えます。
理由は、ガバナンスがしっかりしていない。つまり企業自身で企業を管理できていないからです。
下記に主な問題点をあげます。
今回の税制大綱により創設された規定により、下記の問題のリスクヘッジになるかは不明です。

①未払残業代問題
例えば未払残業代問題。M &Aの実務では定番の指摘事項でありますが、従業員や元従業員から未払残業代請求が来た場合の買収対象会社の株価に与えるインパクトは少なくないです。
このリスクに備えるため、契約書に表面保証や特別補償設けて対応することも、一つの対策となります。
だだし、契約書に表面保証条項を付したとしても、中小企業M &Aの買収対価が少額である場合に、そもそも売手が損失を補填できない可能性があります。
この場合には、買収会社が未払残業代を肩代わりするしかない・・・

②名義株式問題
名義株式も中小M &Aの頻出の問題です。M &Aを実行する際、本当の株主を確定する必要があります。株主をを確定できないとM &Aの売却代金を減額されるなど契約上売手側が不利な状況になると思われます。最悪の場合はM &Aが中止となることもあります。

《背景》
名義株が生じる背景は、平成2年の商法改正がなされるまでの間、株式会社の設立には最低7人の発起人が必要でした。
《名義株主の判定方法》
名義株主の判定は、下記の点を考慮して、事実認定を積み重ねていく必要があります。

・株式取得のためのお金は出していない。
株主総会に参加していない
・配当金を受領していない
・名義株主となった合理的な理由
・本来の株主と認識しているかどうか

《解決策》
先代のオーナーが謝礼金を支払っても、なるべく早く名義株式問題の解消を図るべきです。名義株主に相続が発生して、株式が分散されてしまえば、名義株式の解消は困難を極めます。名義株主の相続人が株主と主張してくる可能性があるからです。
下記は解消方法の一例です。

①確定書の入手→オススメ
名義株主から本来の株主ではない旨の確認書を入手する。証拠能力の観点から、自署と押印は実印をお願いする。

②組織再編→事務手続きが煩雑
名義株式対策として、会社分割により株主を確定させるスキームが考えられます。
買収対象会社に不動産や許認可事業がある場合はハードルが高いですが、名義株式のリスクを買手から売手に移すことができます。
また、組織再編の無効の訴えに期限があるため、期限を経過すれば組織再編について争われにくくなります。

③キャッシュアウト→最終手段
名義株主の解消が難しく、名義株主の議決権割合が少ない場合は、強制的に株主から追い出すことも考えられます。